はじめのはじめ

二次元傾倒な日々。

ねこねこソフト『すみれ』 共通部分の感想とか。

 というわけで、5月末発売のエロゲの中では、ねこねこソフトの新作『すみれ』と、朝妻さんがディレクターということでPULLTOP Airの『なついろレシピ』を購入しております。サントラすきーの私としては、どちらも特典がサントラ(ねこねこの方は15周年の物ですが)ということで非常に好ましいです。

 さて、私は残念ながら“落とし神”ではありませんので、同時に多数の美少女ゲームをクリアすることはできません。ひとまず、すみれからプレイし始めていますが、この作品、やはりというべきか読み進めるごとにダメージを受ける(褒め言葉)タイプですね……。あきらかに、青年・中年層のエロゲプレイヤーを殺しにきています。

 

 主人公である片瀬健二は、営業職数年目の社会人。学生の頃は、人と接することの苦手な、エロゲなど二次元のコンテンツに熱中している、本当に『どこにでもいる』人物でした。社会人になり、愛想笑いのスキルを身に着けどうにか日々の仕事をこなせるようになった彼は、以前のような二次元への熱が薄まっていることを自覚します。エロゲを買うことも少なくなり、録画したアニメもどんどん溜まっていく。そんな日常の中で、彼が唯一続けているのが、エロゲ等のキャラの“なりきりチャット”のようなネトゲ です。

 一日の終わりにログインし、数年来の知人である“多恵”と“ピンク”の三人で、とりとめもない会話を楽しむ。彼らの不文律はただ一つ、相手のリアルは詮索しないこと。健二のアバターは、自身と同性同名のエロゲ主人公である“健ちゃん”。言うまでもなく、ねこねこソフトの過去作品『みずいろ』の主人公ですね。

 そんな彼ら3人のコミュニティに、突然現れた“モエ”が加わることにより、物語は転がりだしていきます。というのも、この“モエ”の正体は、親同士の再婚により最近同居するようになった健二の妹、初芝すみれだったのです。……そして、そのことを知っているのは健二だけ、という状況。

 

 健二も、すみれも、自身はリアルでは『馴染めない』人間だと自覚しています。健二は、対人関係を愛想笑いと見て見ぬフリで切り抜けるような……すみれは、学校の休み時間を寝たフリで過ごすような……そんな生活を送っていました。

──けれども、ネットの中では。

 普段はお調子者でも、ここ一番では行動力がある、ヒロインのために一生懸命な主人公“健ちゃん”であり。

 休み時間に寝たフリなんかしない、プリクラが趣味の、クラスの人気者“モエ”であろうとしていました。

 

 その試みは、しかしながら早々に破綻してしまいます。

 

 ……こんな時こそ……健ちゃんならば……

リアルの俺には無理でも、本物の健ちゃんならば……

さりげない優しさで、励ましてやれるはずだ。

泣き続けるヒロインを、慰めてやれるはずだ。

……こんな時こそ……健ちゃんならば……

 

……だけど、思いつく言葉がなかった。

 

 ネットの世界では『本物の』健ちゃん──まさにエロゲの主人公のように、女の子が悲しんでいる時にさりげない優しさを見せる、かっこいい男──として振る舞っていた健二ですが、自分は本物ではないと突きつけられる。この、『思いつく言葉がなかった』時の感情は、計り知れないものでしょう。自分に想いを寄せてくれている女の子……すみれに、現実では力になれないと身を引きつつもせめてネットの中ではヒーローでいようとした健二が、そのネットの中ですら本物の主人公にはなれなかったと知った時。いや、心の片隅では気づいていたことだったのかもしれませんが、その現実を目の当たりにした瞬間。彼に残された選択肢は、

 

 健ちゃん「そっか、モエすごいなー、クラスの人気者だな」

モエ「ええ、なんたってわたし、MMCですからね」

健ちゃん「ははは、モテて、モテて、こまっちゃうか、懐かしっ」

 

 社会人になって磨きをかけた愛想笑いのスキルを使ってニコニコ笑いながら、ネットの世界の晴天の下、モエの強がりを聞くことだけでした。

 

 この空しさ、この瞬間があったからこそ、後に彼が見て見ぬフリをやめ、すみれの部屋に入り、不格好ながらリアルでも『健ちゃん』のようになりたいと語る言葉に……意味が生まれているような気がします。

 

 ……と、共通部分──恐らくその中でも前半──だけでもこのやられっぷりです。ああ、もっと気楽に読みたいとは思うのですが、仕事帰りにこの物語は危険でしょう……。

 とはいえ今後が非常に楽しみなので、ダメージを受けつつも早く進めていきたいと思います。今後、健二やすみれがどう変わっていくのか。『健ちゃんのように』、『モエのように』という感覚を指針にすることは良いと思いますが、それ自体が呪縛になってしまわないか。そして“多恵”や“ピンク”がどういった人物で、何を抱えているのか。気になることは尽きませんね。そんな中、誰のルートから進めればいいのでしょうか……とりあえずピンクですかね!

『ハクメイとミコチ』の話とか。

 先日、地元では大きい部類に入る書店に行った時のことです。

 以前から買おう買おうと思っていた『坂の上の雲』の1、2巻を手に取り、そのままぶらぶらと漫画コーナーで面白そうな本を探していた私の目に、興味深い帯が入り込んできました。

 

 森の奥で暮らす、ふたりの小さな女の子。

身長はわずか9センチメートル。

 

 なるほど、確かに私は小さい女の子が好きです。お姉さんよりも妹に優しくするのは当然ですし、高校生よりも中学生、小学生の女の子を可愛いと思う人種です。あ、勘違いしてはいけません。ゆのっちは高校生ですが、とても魅力的だと思いますよ?

 さて、そんな私ですが、さすがに身長9センチメートルは対象外です。だって、握りこぶしくらいのサイズじゃないですか。とりあえず既刊と思われる1~3巻を手に取り、悠々とレジに持っていきましたが、決してそういうことではありません。絵柄の雰囲気がなんとなく好みだったからですよ。

 ……前置きが長くなりましたが、そういうことで今回は漫画『ハクメイとミコチ』の話です。

 

 身長わずか9センチメートルの少女であるハクメイとミコチ。彼女らは、大木の根付近に家を構えて生活しています。各地には、同じく手のひらサイズの人間たちによる街が形成されているようで、2人だけが特殊な存在というわけではないようです。すなはち、イメージとしては人類のみが小人サイズになった世界、といったところでしょうか。

 漫画の中で描かれているのは、主として小さな彼女達の日常生活です。それらは、いたって普通のものですが、視線が違うことで新鮮な世界が広がって見えます。

 たとえば……

 一粒がメロンほどもあるブルーベリーやツルバミを染料に布を媒染して洋服を作ったり、米の一粒を砕いて適量のご飯を炊いたり、柑橘類の木の下で葉っぱと茎のテントをこしらえ野宿したり……といった具合に。また、詳しくは語りませんが、彼女らの仕事についても、深く掘り下げて描かれています。

 このように、衣食住や仕事について丁寧に表現されているので、読者の中で、登場人物たちが生活している存在としてしっかり形作られてきて。すると必然的に、街が息づくわけですね。私は、ここが非常に重要な点だと思っています。

 異世界──と、あえて表現します──を描く作品は、それこそ世界の数ほどありますが、その世界の街が息づくためには人の営みに関する描写が欠かせません。現実に則した世界の物語である場合、私たちは自分のそれを流用する形で、登場人物の暮らしを想像することができますが、異世界の場合はそうはいかないからです。

 つまり、想像するための足掛かりが必要になる。

 そういった点で、この『ハクメイとミコチ』という漫画は、非常に多くの足場が存在しています。よって、描かれる街や市場は活気づき、世界は非常に魅力的に映っています。一方で、そうした日常描写があるからこそ、合間にひょっこり混じる非日常──探検であったり、祭りであったり──のエピソードが絶妙のスパイスになっているように感じました。

 

 と、こんな風に冷静に語っていますが、初読した時は、

「なんだこれ、すげえ面白いな!」

「ミコチ可愛い。ハクメイも可愛い。いや、ミコチ可愛い」

「あー、もう旅に出たいな……(定期的に発する言葉No.2くらい)」

「今いる世界にさよならしてえ……(ユメミルクスリ)」

 といった独り言を発するくらいに、かなりのダメージを受けていました。

 そんな『ハクメイとミコチ』。オススメできる漫画ですので、よろしければ是非。

道の話とか。

 『なついろレシピ』の発売日が5月に延期し、4月末発売のエロゲについては、やってみようかなと思うものが無くなってしまいました。ということで、ゆっくり、ゆっくりと歩くような速さで『花咲ワークスプリング!』を読み進めています。若葉ルートと彩乃ルートが終わり、現在は祈ルートの途中まで。

 このゲームの事を考える場合、大きく2つの時間について触れなければなりません。ゲーム本筋の時間と、そこから恐らく5年以上前──不知火飛鳥が存命していた頃の時間です。若葉・ヒカリのルートでは前者が、彩乃・祈のルートでは後者も含めて重要となっています。

 

 ありふれた話になってしまいますが、人生を道に例えるとします。

 このゲームでは──

 自信に溢れた力強い足取りで進む不知火飛鳥がいて、彼に手を引かれるようにして、後をついていく玖音彩乃がいる。苦笑しながらも隣を進む山下久美や古賀千代子がいる。そんなふうに先を進む飛鳥を見つめ、仲間と慕う花咲遊真がいる。反対に、兄を敵とみなして、全く別の力を求める不知火祈がいる。

 けれど、突然、飛鳥はいなくなってしまいます。

 引いてくれていた手を見失い立ちどまる彩乃。そんな彩乃を気にしつつも、久美と千代子は前に進み、種類は違えど『先生』と呼ばれるようになって。

 目標を見失った遊真は、けれど見定めた道を違わずに進んでいき──だからこそ、その道の途中で、空森若葉と琴吹ヒカリの手を引くことが出来た。そうして進んでいった先、かつての仲間がいた場所には、彩乃が待っていた。そして、その場所に、遊真や飛鳥とは違った正しさを信じる祈が戻ってきて──。

 花咲ワークスプリングの大まかな背景は、そんな感じでしょうか。

 

 こうやって、無数に枝分かれした道をそれぞれ進んでいく姿を想像すると、登場人物たちが非常に身近な存在に感じられますね。

 「他人を求めて敬う、足ることを知る、それができない人に幸せは訪れない」と断言する彩乃だったり、孤独の強さを信じながらも「自分は、幸せなんていう幻想は手に入らない」とつぶやく祈だったり、「近くにつまんなそうな顔してるヤツがいると、安らげない」と子供の頃からの行動理念を語る遊真。なかなかどうして、チャーミングな人物だと思います。

 彼らについて詳しく語るのは、けれど、また別の機会に。

 

 

 しかし、『なついろレシピ』は5月29日ですか……『すみれ』とぴたり重なってしまいましたね。どちらからプレイするか、悩みどころです。こうして興味深いゲームが次々に出てくれるのは、嬉しいことですね。『サクラノ詩』も7月に決まったようですし、今から待ち遠しいです。けれど、一番待ち望んでいるトノイケ氏の新作は、まだ影も形もないようで。同志の皆さん、気長に、気長に待ちましょう。

 最後に余談……というか私信ですが、某氏がサノバウィッチをプレイし始めたようで、嬉しい限りです。

花咲ワークスプリング! 雑感(ヒカリルートネタバレあり)

部則その1、部員は未練がある者でなければならない

部則その2、部員は他の幽霊を労り、言葉を大切にしなければならない

部則その3、部員は怠惰でなければならない

部則その4、部員は未練を失ったら去らねばならない

部則その5、部員は桜の木の下で立ちどまってはならない

                 (花咲ワークスプリング!/幽霊部部則より)

 

──世の中には、秘密が隠されている。

 

 SAGA PLANETSの新作18禁ゲーム、『花咲ワークスプリング!』をプレイしています。

 何かに未練がある者が集まって、どこに向かうでもなくただ日々を過ごす部活──幽霊部。春もうららな4月15日。花咲遊真は、この謎めいた、けれどどこか魅力的な部活に入部します。怠惰に過ごす事をモットーとしている彼と、一癖も二癖もある個性的な部員たち。時の流れに逆らうように停滞し続ける事を目的とした空間で、彼らは関わり、そして──。

 

 共通部分の文章は、お世辞にも褒められるものでは無い、と思います。話の転換を起こす手段が荒く、人の行動について“気まぐれ”の一言で片づけられないブレがある。けれど、それ以上に魅力的な設定があり、物語を進めるエネルギーとして機能しています。言わずもがな、幽霊部の事ですね。

 

 文頭で引用した部則。これは、幽霊部の設立者──玖音彩乃がつくった物です。

 部員は未練がある者でなければならず、また未練を失ったら去らねばならない。

 時間は否応なしに過ぎていくけれど、流されずに捨てれないものがあって。そんなどうしようも無さに逆らうためか、異常とも言えるほど怠惰に過ごしている遊真。他の部員も皆なにかを抱えていて、それを捨てることが出来ないからどこにも進めない。

 未練があるから、幽霊だから、どこにも進まない。

 物語の中で彩乃は問います。

 

彩乃「桜の木の下には、秘密があります。さて、それは一体どんな秘密でしょ~?」

(中略)

遊真「……孤独」

彩乃「ピンポ~ン、大正解っ♪」

 ある人物と関わりがあったから、答えを知っていた2人。

 立ちどまっている人間は、流れていく世界の中で独りぼっちです。そして、それは仕方ない事だと思っている。けれど、彩乃は言っているのです──孤独で勿れ、と。

 傷を舐め合うために群れているだけ、と言ってしまえば確かにそうなのでしょう。嫌悪感を覚える人もいると思います。どこにも向かわない人間が集まって、ワイワイと騒いで、行き着く場所を見つけた人から去っていく。そんな後ろ向きで前向きな空間が、しかし俺には魅力的に感じました。

 彼らは、行き着く先を見つける事が出来るのでしょうか。

 

 共通部分についてはそのような印象で。

 個別シナリオについては、琴吹ヒカリの話から進みました。

 

 過去──とても楽しかった頃(恐らく何らかの理由で突然終わってしまったのだと思われる)を見つめ、あの頃に戻れたらと願い、立ちどまっていた遊真。

 過去──耳が遠い事が原因で辛い日々を過ごし、あの頃のように独りぼっちになってしまったらと恐れ、立ちどまっていたヒカリ。

 ヒカリルートでは、それぞれの理由から立ちどまっていた2人が出会い、一緒に過ごすことで変わっていき、共に未来へと歩いていく……そんな普通で、だからこそ王道な恋愛が描かれています。

 物語の根幹である幽霊部の秘密、遊真の過去の伏線など、そういったことを解消しなくても、ハッピーエンドへ繋がる未来はあるということで。そういった可能性を見ることが出来るのが、マルチエンディングの美点の一つだなぁとあらためて思いました。

 

遊真「過去じゃなくて、これからをずっと見てる。来週は出掛けられるかなとか、夏休みになったらどこに行こうかとか、その後のことも」

ヒカリ「私も、同じです……。先輩のことばかり考えてます。お話の中では、付き合い始めたら終わってしまうものが多かったけど、そうじゃなかったです。今が、これからが、すごく、愛しい」

 心の方向が過去から未来へと徐々に変わっていく、その速度が、前へと進む歩幅が、ふわりと心地いい物語でした。

物語は続いていく。

 サノバウィッチ和奏ルート読了、これをもって全てのルートをクリアしました。

 柊史や寧々、オカルト研の皆の人生は、これからもずっと続いていくわけですが、それを見ることができないのは、やはりさみしいですね。

 

 昔──二次元に没頭する強度が今より遙かに強かった頃、物語が終わってしまうことが本当に嫌でした。現実なんてどうでもよくて、ただ彼、彼女達の世界をずっと眺めていたい。それだけでなんとか日々の雑事を乗り越えていくことができる。そういう風にエロゲや漫画を読んでいたのです。けれどもいつか、その物語は終わってしまう。自分を残して、手の届かないところへ行ってしまう。

 

 物語が先に進んでしまうことへの恐怖、とでもいいましょうか。展開してほしくない。こういった感情に親和性が高いのが、日常系の漫画(4コマ等)でした。登場人物の日常を描くことを主目的とした漫画形式。刊行ペースが遅いこともあり、長い間、その漫画の世界に浸かっていることができる。そんな4コマ漫画は、私にとっての救いになりました。ゆのっち可愛い。

 

 今では当時ほどの強度で物語に没入──ある種、救いを求める──ことは無くなりましたが、それでも物語が終わってしまうと、秋夜を一人で過ごすような気持ちになります。

 けれどもまあ、そう思えるということは、裏を返せばそれだけ素晴らしい物語に出会えたということで。だからこそ、読むことはやめられないのでしょう。

 

 さて……だらだら書きましたがサノバウィッチをクリアしたということで、今週末は『花咲ワークスプリング!』を買って来ようと思います。

サノバウィッチ寧々ルート感想(ネタバレあり)

寧々「少し時間がかかるかもしれませんが……私は絶対に、幸せにしてみせますから。それで、また2人で心の底から笑いあいましょうね」

 寧々は笑ってくれた。

 涙を零しながらだけど、それでもちゃんと笑ってくれた。

                       (サノバウィッチ/寧々ルート)

 

 ──涙は宝石。恋せよ、乙女。

 

 サノバウィッチ、寧々ルート読了です。

 メインヒロイン4人の中でもさらに中心的なキャラクターですので、個別ルートにも気合が入っていました。

 

 保科柊史と綾地寧々。

 能力や代償の事を考えて誰かと深い付き合いをしたいとも思っていなかった、そんな2人は出会ってから徐々に変わっていきます。オカルト研に人が増えて、友人が増えて、毎日が楽しくて。そして、笑顔が自然になっていく。

 2人一緒にいると楽しい事ばかりだと語る、似たもの同士。そして徐々に惹かれあっていき──けれど。

 

寧々「もう……本当に時間がないみたいです……」

柊史「…………そっか」

 さらに強く寧々を抱きしめる。

 もうすぐ、寧々は長い旅に出てしまうから。

 そしてなにより、オレにとっては最後だから……寧々の温もりを、この肌で感じられるのは、これで最後になる。

 

 

 結ばれた2人の前に立ちはだかる壁が現れます。願った魔法の影響で、過去に戻ってしまう寧々。一時は立ちどまってしまいましたが、それでも彼らは最後まで、お互いの事を想って行動していました。

 寧々を失う未来へ繋がっている道。けれど、だからこそ──寧々との大切な時間を後悔で終わらせたくない。諦めない。笑っていて欲しい。

 立ち止まらず、足踏みせず、ちゃんと前を向いて歩いていこうという意思を持った柊史は本当に恰好よくて。だから寧々も「いってきます」と、ちゃんと笑って、進むことができたのでしょう。

 そんな柊史の意思は、寧々が過去に旅立った後、整合性をとるために変化した世界の中でも、変わらずにしっかりと残っていました。

 ですので、きっとそこからは、また少し違った保科柊史と綾地寧々の出会い──今度も衝撃的なのでしょうか──があったりするのでしょう。

 

 

 そして、過去に戻った寧々の方は──

 七緒の計画が功を奏し、柊史と再度結ばれる寧々。甘々な生活を送る2人ですが、彼女は時折浮かない顔を見せます。

 やり直しの人生を歩んでいる自分と、一度きりの人生を歩んでいる周りの人。同じ道を進んでいるようで違うという事に、後ろめたさを感じている。だからでしょう、オカルト研の活動について、必要以上に失敗を恐れていた。自分にとっては2回目の相談なのだから、前よりも良い結果を掴みとらなければならない。──そうやって張りつめて、壊れてしまいそうなくらいに。

 ハロウィンパーティーの後、柊史の計らいで集まった皆にお礼を言われた寧々は、周りを見回して問います。

 

「みなさんは……本当に、楽しいですか?」

「みなさんは……本当に、笑えていますか?」

「みなさんは……本当に、幸せですか?」

 

 本当は不安で仕方なかったのでしょう。自分勝手な願いで巻き戻った世界の中で、元の時間軸で幸せだった人が不幸になってしまったら。自分は柊史と結ばれて幸せな分、よけいにそう考えてしまう。

 けれどそんな寧々の問いに、皆は笑顔で答えます。そして手渡される花束。

「出会ってくれて、ありがとう」

 感情なんか読めなくても簡単に伝わった本心からの感謝に、皆に負けない笑顔で答える寧々。

 長かった寧々ルートの締めくくりに相応しいシーンだと思いました。

 

 そしてエピローグ。

 先を知らないことには不安もあるけど、それが普通。みんなその中で、それぞれの幸せを掴んでいくんだ、と語る柊史。

 手と手を繋ぎ、満面の笑みを浮かべて歩き出す2人。

 彼らが進むその道の先は、まだ見ぬ輝かしい未来に続いているでしょう。

サノバウィッチ紬ルート感想(ネタバレあり)

紬「そうなんだ……だったら、いいよ。しばらく、保科君のお母さんでいてあげる、よしよし」

 こんな姿、他の人には情けなさ過ぎて見せられないだろう。

 それでも甘えたくなってしまうから不思議だった。

                      (サノバウィッチ/紬ルートより)

 

 紬お母さんは天使。

 

 はい、サノバウィッチ紬ルートを読み終えました。

 まったく……紬の可愛さはこのゲーム中で随一ですね! なんでしょう、最近男装している女の子にグラッとくることが多い気がします。男装することによって、逆に女の子らしさが強調されるから……仕方がないんですよ……。

 

 物語の中で協調されているのは、紬の母性ですね。柊史を優しく抱きかかえて頭を撫でたり、病気の看病をしてお粥を食べさせたり。またアカギに対して怒る時にも、厳しさの中に優しさが溢れている。

 そんな紬は、小柄で華奢な体つきをしていて、契約の代償により男の子の服装をしているのです。しかも契約の際に願った事は“目当ての品だった売り切れた服を、もう一着だけお店に並べて欲しい”というツッコミ所満載なもの。

 母性と外見、おっちょこちょいな一面。これらが絶妙なバランスで混ざり合って、紬お母さんという可愛らしい生物が爆誕しています。

 

 ストーリーについては、上述した紬の母性を描くためのもの、という印象を受けます。ですので、全体の盛り上がりなどについて特筆する点は少ないですが、その過程でアカギ──アルプという存在──に焦点が当たっており、アルプ側から見た心のカケラ集めについて触れられているのが新鮮でした。

 

 最後に、物語のエピローグにて。

 アカギが人間になるために魔力を集める魔女になる、と紬は言います。一度願いを持って魔女になった人間は、二度と魔女にはなれない。このルールをアカギも紬も知っている以上、これは「どこにもいかないで、一緒にいたいんだ」の意味。今のアカギには、それがわかる。そして、涙をごまかすアカギを優しく包むように──クリスマスの夜、雪が降るわけです。美しいですね。

 新たに始まるアカギと紬、柊史が、魔女の力を使わずに心のカケラを回収していくドタバタ劇も見てみたいなと思いました。やはりアカギが、

「くっくっく、名案を思いついたのじゃ!」

 と、いつもの調子で破天荒な計画を立案するのでしょうか。

 計画の結果、何故か魔法少女化した紬が触手と戯れる(お察しの比喩表現)ことになってしまい……その案に内緒で乗った柊史と一緒に正座──もちろん、紬お母さんのお説教付きです──させられながらも、どこか幸せそうなアカギが目に浮かんできます。