めぐる「……セ、センパイですから。わかってます……。わかっちゃい……ましたよ……もう……」
その後はもう、2人とも言葉もなく、ただこうしていた。
とくん、とくん、とずっと耳朶に響いていためぐるの鼓動は──
めぐるが帰ったあとも、ずっとオレの体内で鳴りやまなかった。
(サノバウィッチ/めぐるルートより)
友達から、恋人へ。
めぐるルートでは憧子ルートとは一転して、相手の感情が読める上での恋愛となります。アイキャッチのタロットカード“THE STAR”が暗示する──ネットで適当に調べた限りですが──とおり、友達から恋人へのステップが、これでどうだと言わんばかりに懇切丁寧に描かれていました。
いくら相手の感情を感じるからといって、柊史にとって、まためぐるにとっても初めての恋愛。やはりというか、初めから上手くいくことは多くありません。
失敗して、落ち込んで。
そんな時、二人には心配して相談に乗ってくれる友達がいます。柊史には海道と仮屋が、めぐるには寧々が。他人と上手く付き合うことが出来ずにいた彼らが、それでも頑張ってつくった大切な友達。
そんな友人たちの温かな応援もあり、一歩ずつ恋人として歩んでいく二人。甘々です。途中から感づいていましたが、このルートはやばい……甘々すぎて、見ているこちらが爆発する事必至です。
そして初デート。失敗することも多いけれど、つないだ手とか、合わせた歩幅だとか……そういった本当に些細な事だけで、幸せすぎると喜ぶめぐる。殺人的な可愛さですね!
といったように、ダダ甘い青春を送っている彼らですが、それでも埋まらない柊史の“心の穴”。物語の後半は、そこにスポットが当てられます。
母親から受け継ぐ形で生まれ持ってしまった、他人の感情が読める能力。そのことから生じるトラブルを、『どうしようも無い』と深く諦めたことで空いてしまった“穴”。
柊史から相談を受けた憧子は、彼の能力を『魔法』と呼んで、「なにかを叶えるために備わっているものなのかもしれない」と言います。それを聞いて柊史は考える。忌避してきた自分の能力だけれども、生きてきて初めてこの能力があって良かったと思えることがあった、と。もしもこの能力が『自分自身の魔法』だったとしたら──
七緒の元へ足を運ぶ柊史。そこで得られた答えは、柊史の能力が『魔法』であることは間違いない、というものでした。
契約も、願いもないけれど、今ここにある。極めてイレギュラーな魔法。けれど、魔法であることに変わりはなくて……だから、後は『何を願うか』。
依然ふさがらない心の穴は、その願いを待っているのではないかと。
そして、柊史の心に満ちている願いとは──
呪いともとれる能力が、願いを叶えるための魔法へと変わる。それは、まさに魔法のように眩しい方法だと感じました。
そして最後に。友人たちや、親だとか、様々な人──また、人外の存在──の応援を受け、背中を押してもらって前に進んできた柊史とめぐるのカップル。そんな二人の背中には、木月千穂子という百折不撓の心を持った魔女の、優しく温かい手も添えられていることを俺は忘れないでしょう。