はじめのはじめ

二次元傾倒な日々。

星メモ感想。南星明日歩について。

 明日歩シナリオ読了。いやー、面白い!
 共通部分では元気のいい、ワンコのようなヒロインとして描かれている彼女だけれど、個別シナリオでは一転して、様々な不安を抱えているところや実は泣き虫なところが明かされていく。
 明日歩のことを語る上で重要になってくるのが、洋と同じく、いやそれ以上に昔の大切な想い出を抱えているということだろう。子供のころの、洋に対する初恋の想い出。ヒバリ校で再開したことにより、明日歩はその想い出をより大事に抱え込み、洋への想いを募らせていくことになる。
 けれど、それと同時に明日歩の中で、ある負い目も大きくなっていく。自分は、洋の想い出の大切な要素である展望台の彼女の名前──”夢”という、また何とも象徴的な名前らしい──を知っている。けれど、それを渡してしまうと、洋はきっと展望台の彼女を追いかけていってしまう。自分にとっての初恋の相手が洋であるように、彼にとっての初恋の相手は夢なのだから。自分の初恋は、成就しなくなってしまう。
 洋と過ごす学園生活は、明日歩にとって何にも代えがたい幸せな時間であるとともに、そうであるが故に負い目を重くさせるものだったはずだ。日に日に高まっていく恋愛感情と負い目。それが臨界点を超えた結果が、合宿での告白だった。あのシーン、明日歩は洋に振ってもらうために、自分の初恋を終わらせるために告白している。つまりそれは、恋愛感情が溢れた結果という告白の本来の意図以外に、自分の負い目を清算してしまいたいという側面もあったということだ。むしろ、その側面こそが彼女にとっての表面だった。だから明日歩の告白は、あんなに痛ましく映る。
「洋ちゃんは、あたしをフらなきゃいけないんだよ……」
 自分の想いを受け止めてもらえたのに、明日歩の口から出てくるのはそんな言葉で。そう、そんな明日歩の思惑とは異なり、告白は「成功」してしまったのだ。
 きっと、南星明日歩という女の子は、自分の想い出の強度と洋の想い出のそれを同一化してしまっている。自分がこんなに洋の事を想っているのだから、洋もきっと夢の事を想っているに違いない。そんな風に。
「想い出は、想い出だよ」
「洋ちゃんだって、そうなんだよね……」
 けれど──、と続くだろうその言葉は、物語中盤での明日歩の言葉。自分たちは、お互い忘れられない大切な想い出を抱えているのだと。思えば、明日歩が洋に対して仲間意識──互いの家が母子家庭、父子家庭だというもの──を感じたという幼少期から、それは始まっていたのかもしれない。そして、決定的な要因となったのは、言わずもがな引き出しにしまい込んだ洋の短冊だ。
 話をもどして。明日歩の初恋は成就した。それは洋の初恋──便宜上そう書いたけど、あくまで明日歩が思い込んだもの──の終焉を意味する。この問題は、初恋の成就という衝撃と、その後のカップル生活のおかげで水面下に隠れてしまったが、決して解決したわけではなかった。また、本来解決のしようがない問題だった。上述したように、片方を立てれば片方は立たない。仲間意識をもった彼女らが抱えた想い出は、そういう性質のものだったから。
 展望台で、洋が明日歩の難聴を指摘した時。最初おれは、明日歩の反応の理由がよくわからなかった。けれどこうして考えてみると、あれは水面下に隠れていた負い目が顔を出しただけだったのだろう。洋に対して隠し事をしていたということと、展望台という夢に関わるロケーション。この幸せなカップル生活は、自分が洋の大切な想い出を鍵をかけてしまい込んでしまっているから。それは想い出を大切にしてきた明日歩にとって、許されないことだった。
 
 この物語の妙は、明日歩と洋が結ばれるためには、明日歩が初恋を終わらせる必要があった、という点だろう。そして、その初恋の相手が洋だという矛盾。洋と明日歩は、本来どうしようもなかったのだ。メアという、悪夢を刈り取る自称死神がいなければ。
 あの屋上でメアが刈り取った悪夢は、まぎれもなく明日歩の初恋だったはずだ。洋の名前を忘れないようにと、大事に大事にしまいこんだ短冊。けれどそこからは、洋が夢に向けた感情も痛いほど伝わってきてしまう。そんな短冊が霧散したのは、明日歩が抱え込んでいた──または縛られていた──初恋の想い出が刈り取られたということ。
 だからこれは、昔の初恋を叶えた物語ではなくて。初恋を終わらせて、新しい恋を叶えた物語なのだろう。ただ、恋した相手が同じだったというだけで。周りにとっては無意味に見えて、実際無意味で……けれど二人にとってその過程は大きな意味を持っている。それがもう、たまらなく好きだ。