はじめのはじめ

二次元傾倒な日々。

景の海のアペイリア、クリアしました。

 景の海のアペイリア、クリアしました。最後の方の三羽の説明等を読み直してようやく、そういうことか! と理解できたような気がします。しっかし、よくここまで構築したなぁ、純粋にすごいとしか言いようがない。
 
 地道に積み上げてきた何かを大切な人のためにばっさり投げ捨てるという行為、そうしてもよいという心情に名前をつけるとするならば……それは恋ではなく、やっぱり愛だと思うのです。
 最後の時間軸、零一がシンカーの多世界解釈を信じてアペイリアを助けることを諦める場面。アペイリアと過ごす最後の時間を手に入れるために、零一はこれまで決して諦めなかった未来への可能性を、投げ捨てます。諦めずにタイムリープし続けたとしたら、どこかの平行世界のアペイリアを助けることはできるかもしれない。けれど、それまで通過していく世界のアペイリアは必ず死ぬことになるし、なにより今目の前にいるアペイリアと最後の瞬間まで一緒にいることができない。作中で繰り返し述べられているように、『自分は自分以外の何者でもなく、唯一の存在である』というのが、零一の考え方であり、本作のテーマのひとつだと思っています。同じ見た目、同じDNA、同じ記憶を持っていたとしても、零一は零一であり、スワンプマンはスワンプマンである。これは決して、『クローンはオリジナルにはなれない』といった否定的なニュアンスではなく、『誰かのクローン体であったとしてもオリジナルとは別の個人である』という、すべての生物に対する全肯定です。だから、零一は自分の目の前にいるアペイリアを見捨てて、平行世界にいる別人のアペイリアを助けにいくなんてことをできるはずがなかった。零一がそれまで諦めずに観測者と戦ってこれたのは、世界は単一で、タイムリープしたとしても自分が救おうとしているアペイリアは一人しかいないと信じていたからです。その前提が崩れた以上、彼には選択する義務があった。あの「諦める」が、この物語の根幹にあるものを、最もよく表していると思いました。結局のところ世界は単一で、零一たちは仮想現実内で動くAIで、タイムリープなんて実は起こっていなくてサーバーを過去の状態に復元していただけだったのだとしても。それでも、あの瞬間に零一がそう決断したということは、揺るぎない事実なのですから。
 さらに、この作品の特徴として、上述したようなテーマを主張するだけでなく、そこに懐疑的な視点も示しています。シンカーの最後の独白である「過去の記憶を忘れようとした。が、できなかった」は、まさにそれだと思っていて。零一が主張した綺麗事の難しさを、彼のスワンプマンであるシンカーが語っている形となっています。また、物語ラストの干渉縞が消えている描写も、彼らが勝ち取った現実世界と思っていた世界も、実は仮想現実に過ぎないのではないかと“も”とることができます。これらの視点が物語に上手く作用しているかどうかは別として、珍しいなぁと思いました。
 
 と、真面目な話は置いておくとして。
 
 いやー、アペイリアと過ごす最後の一年間、いいですね……。終末感がすごいです。もっと尺を使ってくれてもよかったんですよ? ……わかってます、物語の流れが滞るので無理だってわかってます……。でもアペイリア可愛すぎるじゃないですか。零一をゆさゆさと揺すって起こした時の「おはようございます、オーナー。目覚ましアペイリアでした」っていう台詞とか、破壊力ばつぐんでした。「目覚ましアペイリア」って語感良すぎですし、アペイリアのあの口調がしっかり合っている。そういった具合に、零一とアペイリアの会話って、どういうわけかすごく心地いいんですよね。中でも一番笑ったのが、アペイリアがおなにーを教えて欲しいという場面。
「おなにーです。アペイリアもできますか?」
「……できる。まあ、できる……とは思うが、ちょっとまだ早いんじゃないか?」
「早いですか?」
「ああ、アペイリアはエッチもまだだからな」
「オーナーはえっちをしたことがないです。ですが、おなにーは毎日していました。アペイリアも早くはないと思います」
「……」
 完全に論破されてしまった。
 この会話の流れ、まいりました、脱帽ものです。そして、このあとに続くシーンもね……「知ってた!」以外の言葉はないですよね。はい、そこはおなにーを鑑賞するうえでは特等席ですよ。いやー、無垢な女の子を開発していくのって、もう、過去から連綿と受け継がれてきた萌えシーンでしょうけれど、やっぱりたまらないですね。いいものです。
 あと、個人的に一番お気に入りなのが、自転車に二人乗りして河川敷をゆっくり走る場面。ここは、厳密には上述した『諦める』より以前の時間なのですが、だからこそ映えているのだと思います。「自転車に二人で乗ると、恋が生まれる可能性があります」というアペイリアのおねだりを聞き、自転車を走らせる零一。ぎゅっと、零一の体を抱きしめて心臓の音に耳をすませるアペイリア。恥ずかしがりながら『恋する命令』を三度繰り返して、照れたり、照れさせたりしている二人を見ているのがすごい幸せでした。あの瞬間、河川敷の自転車道はどこまでも続いていたし、世界は二人のために存在していました。こういう一場面に出会えると、このゲームプレイして良かった、ってなりますよね。
 
 とりとめもなく書いてきましたが、このくらいで。物語が複雑で、きちんと理解できていないところも多々あるのだとは思いますが、それでもすごい面白かったです。あー、クリアしてしまった……。