読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

はじめのはじめ

二次元傾倒な日々。

長雨の季節に。

 紫陽花を見ると、ある女の子の事が頭をよぎる。

 

 といっても、実際の知人というわけではなく、『your diary』というゲームの“ゆあ”という人物の事だ。肩にかかるくらいの桜色の髪を可愛らしく編み込んでいるのが印象的で、その下には子供っぽさを感じる大きな瞳。140cmを切る身長と無邪気な性格は、どこからどう見てもお子様で。そして、幸せの神様であるという、そんな女の子。

 

 実際にこのゲームをプレイしたことは、あるにはあるのだが、最初からメインヒロインであるゆあのルートに進み、結局クリアせずに止めてしまった……のだと思う。不明確なのは、プレイした記憶がほとんど残っていないからだ。

 つまらなかった、というわけではないはずだ。不満な点もあっただろうが、比較的楽しく読んでいたように思う。けれど、シナリオを一つもクリアしていない……そういう類の、よくある話。

 そんな不誠実な読者である俺だけれども、ゆあという人物の事はわりとよく覚えているようで、こうして紫陽花の季節になると彼女の顔が浮かんでくる。

 

 何故、紫陽花と彼女なのだろう。ストーリー上のキーだったのだろうか。いや、おぼろげだけれど、そうでは無かったと思う。物語上の季節が、梅雨どきだったのか。公式サイトのギャラリーやストーリーを眺めても、よくわからない。

 あるいは、誰もが憂鬱になりがちな長雨の季節に、けれど鮮やかな花を咲かせてくれる……そんな姿に、誰かを幸せにするために頑張り、役目が終われば消えていくような、幸せの神様を重ねてしまうからだろうか。

 ただ、紫陽花を見ると、ふと彼女の事を思い出す。お気に入りの黄色い長靴をはき、同じく黄色の雨傘に小さい体をすっぽり入れたゆあが、紫陽花を眺めている姿が浮かんでくるのだ。彼女は、一体どんな表情をしているのだろうか。自分と同じような存在を眺めて、一体どんな思いを感じているのだろうか。俺は、傘越しに、そっと覗いてみる。

 すると、その横顔は、どうやら笑顔のようで。

 それを見て俺はほっとするのだ。きっと彼女自身の物語も、ハッピーエンドなのだろう、と。

 きっと、もうすぐ主人公が現れて、彼女は子犬のように飛びつくのだろう。突然抱きつかれた彼は、口では雨に濡れたことをぼやきながらも、彼女の桜色の髪をやさしく撫でてあげるはずだ。幸せな2人の未来が、ずっと続いていくのだ。

 俺は、そんな想像をしながら、紫陽花の横を通り過ぎる。