こももシナリオ読了。
姫榊こももは、妹のこさめが見ていてくれるならどこまででも強く在ろうとすることができる、そんな女の子だったのだろうと思う。ものすごく簡単な言葉で置き換えてしまえるなら、「お姉ちゃん基質」の究極系、みたいな。こさめが誇れるような姉でありたい、という願望が行動の原理になっている。けれど対するこさめは、こももが上述したような強さではなく、“自分がいなくなったとしても前に進んでいける”、そんな強さを持ってくれることを切望している。……今語ったような、この物語の歪な基底状態は、こももシナリオ終盤でようやく明らかになる。
こももにとっての特別な存在は、これまでずっとこさめだけだった。それが揺るぎ始めたのは、言うまでもなく「お姫様だっこ」のシーンからだろう。それまでのこももにとって、洋という男の子はただの友人だったはずだ。
「小河坂くんって律儀よね」
「姫榊の生真面目さには負ける」
こももが洋を意識し始めるまでは、お互いに信頼し合っている友人関係で。上で抜粋した会話に代表されるこももと洋のやりとり、距離感はとても心地よく映る。けれどこの段階では、洋はまだ線の外側に立っていて。こももが生真面目に頑張っているのは、結局のところこさめが見てくれているからなのだ。
こももシナリオの序盤を読んでいた時、どうしてこの子は他人に頼ることをしないんだろう、その性格はどこからきているんだろう、などということをずっと考えていた。けれど、自分の半身と言っても過言ではない妹が見ている前で情けない姿なんか見せられない、そういう精神からきているのだとしたら納得はできる。突き抜けすぎでないかとは思うけれど、洋曰く“生真面目”ということなんだろう。
そんな風に他人に弱みを見せていなかったこももだけれど、不意打ちみたいな形で洋に助けられてしまうわけで。しかもお姫様だっこなんて、自分が女の子であることを嫌でも意識してしまうような状況。この場面から、こももの心境に変化が生まれているのは明白だろう。その表出は、お弁当のシーンなどで描写されている。こももが、弱い自分を見せてもいいと思える。唯一、洋だけがそういう存在となっていく。
“弱い自分でも受けとめてくれるこの人がそばにいてくれるなら、自分はいくらでも強く在ろうとすることができる”
こももと洋の関係性って、物語上では「支え合って」なんて言葉が使われているけれど、どうにも適切な表現じゃないように感じる。共に歩いているんだけれど、隣同士というわけではなくて、こももが先行していてその後に洋が続いている、というイメージ。洋が後ろから見守ってくれているから、こももは自信を持って歩くことができる、みたいな。だから表面上では、こももはすごく強い女の子に見えるわけで。
「逃げるわけには、いかないのよ……」
「待たせるわけにも、いかないのよ……」
物語終盤でのこももの独白。前者はこさめに対して、後者は洋に対しての言葉だろう。たとえ泣きじゃくって一度は立ち止まってしまったとしても、こさめと洋が信じてくれているなら、進まなくちゃいけない。ここでも、こももの強さが際立っている。
結局のところ、こももシナリオは終始、こももの強さが描かれているわけだけれど、まるで仕組まれたかのように、あのエピローグへ収束していく。こももがいて、こさめがいて、洋がいるならばあの結末は約束されていた、とでも言えばいいだろうか。でもなんだろう……何か見落としがあるみたいに、違和感が残っている。何か思いついたら、また加筆しよう。
それにしても、こもも、強すぎるよなぁ。眩しいくらいに格好いい。