はじめのはじめ

二次元傾倒な日々。

「負けヒロインが多すぎる!」1巻の感想とか。

 どうも、ご無沙汰しております。桜乃はじめです。
 最近読んだラノベがすげー面白くて、とりあえず感想を書きたくなった次第です。
 
 というわけで、雨森たきび氏著「負けヒロインが多すぎる!」1巻について。
 
 舞台設定は現代日本のとある高校。ジャンルはラブコメ
 1巻の構成は、
 ラノベ好きでぼっちを満喫している高校生温水和彦(ぬくみず かずひこ)は、同じ学校に通う3人の女子八奈見杏菜(やなみ あんな)、焼塩檸檬(やきしお れもん)、小鞠知花(こまり ちか)が失恋する(負けヒロインになる)場面を目撃してしまう。温水を中心として、文芸部という場で3人の負けヒロインたちは交流を重ね、最終的に振られ仲間どうしの奇妙なコミュニティが出来上がる。
 といった感じでしょうか。
 ……いや、これで面白くなってるんだから、作者はバケモノとしか言いようがない。
 
 とりあえず、主人公である温水からスタートして考えていきましょうか。
 1巻の時点では、感情の振れ幅や変化は少ないです。いわゆる、フラットなアーク、とかいうやつ。行動すべてが受動的で、相手のアクションに対する反応で、達観したキャラを立たせてます。ラブコメの主人公って、1巻の段階でなんらかの変化が見られて、クライマックスで劇的な選択をする形が多いじゃないですか。『とらドラ!』で竜児が大河の隣に並び立つと決めたように。『俺妹』で京介が桐乃のために父親に抗議したように。けど、本作では温水に大きな変化は見られていません。ただただ、カメラとして機能している感じで、主人公の背景を描いていないわけです。これ、どう考えても意図的ですよね。
 んで、そのカメラで何を映しているかっていうと、負けヒロイン3人の負けっぷりなわけで。
 
 三者三様の負けっぷり。
 八奈見は、三角関係の中で少し身を引いたらあっけなく他の2人が上手くいって。焼塩は幼なじみがいつの間にか彼女を作っていて。そして小鞠は告白して見事に玉砕した。それらすべてを、温水はただ、目撃してしまう。いや、最初はさ、1巻では八奈見が自分が振られたことを自覚して、立ち直って少し前を向く、ぐらいの構成なのかなーとか思いながら読んでたんですよ。クライマックスでの八奈見の叫びで全部吹き飛びましたね。そんなお利口な奴じゃない。この女、全然諦めてねえ。
 
 そう、温水というカメラを通して見る負けヒロイン3人は、全然お利口なんかじゃないんですよ。顔はいいけど、どこか残念なところがある、B級グルメ的な。……ひどい例えだな。物語の中で、女心が分かっていない温水に対して八奈見とか焼塩が、「そういうところだよ」って言うんですけど、それは彼女たちにもブーメランで返っていく。「そういうところ」が災いしてか否かはわかりませんが、結果として彼女たちは意中の彼のメインヒロインにはなれなかった。
 けれど、なんですよね。
 振られておしまいで人生まで終わるわけじゃないですし、気持ちに整理なんかつくわけないし、時間は平等に流れていくし。そういうときにどうするかっていうところで、この物語の場合は、創作っていう手段が使われてます。いや、もちろん振られ仲間同士の新しい人間関係っていうところも手段のひとつではあるんでしょう。けれど、それが単なる傷のなめ合いみたいな印象を受けないのは、文芸部の合宿の中でそれぞれが創作に向き合っているからだと思うんですよ。
 何かを書くことの意味。それは、楽しかった何かが終わってしまうことに対する反抗であって。流れていく時間を押しとどめようとする行為。文芸部の合宿イベントが、取ってつけたような印象を受けずに読めるのは、そういう背景を感じることができるからだと思います。
 
 そんなわけで合宿を通して仲良くなった『温水+負けヒロイン3人』ですが、クライマックスで温水が八奈見に告白してないのに振られるというハットトリックかますことで、『振られ仲間4人組』というきれいな形に落ち着く、と。確か、星メモやってたときの明日歩シナリオの感想(星メモ感想。南星明日歩について。 - はじめのはじめ)でも言った記憶があるんすけど、こういう振ることが一つの意味を持っているの、好きなんすよ。本作も、それがきれいにハマっていて読後感いいです。
 
 あー、しっかし、こういう明確な悪役が出てこない学園ものって、読んでて楽しいですよね。近年から流行りの、クラスカーストがあーだこーだ陰キャがどうだっていう物語って、よく雰囲気ぶち壊してくる悪役のカースト上位男女が出てくるじゃないですか。あれいらないですよね。物語上、起伏をつけるためにイイ感じに機能するのはわかるんですけど、下げる流れを作るためにわざわざ悪役キャラ登場させていびらせる必要ないじゃないすか。その点、本作はそういう要素も必要最小限で、非常に好感が持てました。
 
 あとは、細かい点をいくつか。
 
 物語序盤から八奈見と温水が待ち合わせして弁当を食べる旧校舎横の非常階段。誰の目にも触れない秘密の場所ってことなんですけど、あれ指定したの八奈見なんですよね。学校内の水道水の味を吟味するほどのぼっちである温水ですら、一人になれるそんなスポットを知らなかった。そういう場所って、探そうとしないと見つからないわけで。そういうところからも、八奈見のキャラクターが見えてきてヤバいです。
 
 それと、合宿中の玉木部長のセリフもぶっ刺してきましたね。温水の考えていたラノベの設定で、最初は反発していたヒロインが主人公のやさしさに触れて心惹かれていく、というものを、
「それは打算だ」
 と切り捨てるシーン。
 物語の主人公の打算、ともとれる言葉ですが……この文脈で使うんだったらどう考えても、『作者の、読者に対する』ですよね。つまりは、そういうやつじゃねえぞってことで釘刺してきてます。
 
 最後に、温水の妹の佳樹。お兄様呼び完璧妹でお兄様だだ甘やかし妹なわけですが、ひたすら裏方ですね。現状、負けヒロインというテーマから外れていますが、「兄妹として生まれた時点で負けている」みたいな感じで物語に絡んできたら俺が死にます。期待してます。
 
 そんな感じで、まったく油断ならない物語で最高です。どうやら5巻まで出てるらしいのでじっくり読んでいく所存。
 ではまた。