はじめのはじめ

二次元傾倒な日々。

アニメ『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』が面白いのでネタバレ全開で語りたい。

アニメ『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』とは

 原作は、『神のみぞ知るセカイ』(以下、『神のみ』という。)で知られる若木民喜先生の漫画で、1992年のエロゲ黄金時代の零細ゲーム制作会社を舞台に、当時の開発現場のネタやエロゲをとりまく環境をコミカルに描いている作品である。アニメ化に際しては『ANOTHER LAYER』と銘打ち、2023年を生きているオリジナルキャラ『コノハ』を主人公に据えて、コノハが1992年にタイムリープしてしまい──という原作とは異なったオリジナルストーリーにて、現代と過去のエロゲ制作環境の差異を描いていく。

 
 物語はエロゲ制作会社のサブイラストレーター(要するにしたっぱ)であるコノハが、エロゲ文化が衰退してしまっている2023年から、エロゲ黎明期とも言える1992年へとタイムリープしてしまうところからスタートする。

タイムリープするコノハ。公式HPから引用)
 
 このタイムリープは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のように、物語冒頭で過去に行きクライマックスで返ってくるという「1回の旅」ではなく、最初のタイムリープは1992年、2回目では1996年といった具合に、断片的に歴史の転換点を追っていくという形の旅であることが、数話すすんだ段階で開示される。
 視聴者はコノハが驚いたり感心したりするのと同様に、エロゲの──ひいてはハードであるところのコンピュータの──歴史を追っていくことになる。昔よくあった、ドラえもんで歴史を学ぶタイプの漫画をイメージしてもらえるとわかりやすい(最悪の例え)。
 

主人公コノハについて

 コノハは、自分の大好きなゲームである、可愛い美少女がたくさん登場する魂のこもったフルプライス作品を作るという目標を持っている19歳の女の子である。しかし現実は零細エロゲメーカーのサブイラストレーターで、仕事といえば廉価ゲームに登場する男性キャラの色塗りばかり。現状にうんざりして、「現実(リアル)なんてクソゲーだ!」と『神のみ』の名言を口にする始末である。
 ──夢のあるゲームを、夢を持った人たちと作りたい。
 そういった願望はあるけれど、今の会社を辞めて新天地に飛びこんでいく勇気や行動力は持ち合わせていない。それはコノハの自己認識として、神絵師と呼ばれるような人気イラストレーターと比較して自分が『何者でもない』ということを、どうしようもなく理解してしまっているからだと思う。このことは、最初のタイムリープで1992年に行ったときのセリフ、「どうしてコノハにこんな事起っちゃったの! コノハにこんな試練与えられても困るんだよー」からも見え隠れしている。そんなコノハは、幸運にも勤め先の会社と同じ場所に建っていたエロゲメーカー『アルコールソフト』にて、住み込みで働かせてもらうようになる。
 

タイムリープと本作のコンセプトについて

 原作漫画の舞台であるエロゲメーカー『アルコールソフト』。1話ラスト、ここでようやく原作キャラが登場することになる。PC-98フロッピーディスク、16色ネタなど、当時のエロゲCG制作の手法を紹介しつつ、環境の違いに戸惑いながらも、コノハは美少女の色塗りを完成させる。社員全員が熱量をもってエロゲをつくっているという姿勢に感化され、自分がやりたかったゲーム制作はこういうものだったんだという充実感に満たされた彼女の中で、『2023年に戻れなくても、ここでずっと働くのも悪くないかもしれない』という感情が芽生えていく。
 
 1~2話を観ている段階の印象としては、いにしえのエロゲ制作現場での経験を積んだことでコノハがどう変化していくのか、物語ラストで現代に戻った時にどう成長しているのかを観る作品なのかなと思っていた。というのも、この物語は漫画『16bitセンセーション』のアニメ化で、コノハはアニメオリジナルキャラクターだからである。
 原作ファンとしては、メイ子やカオリ、キョンシーなどの『アルコールソフト』のメンバーにも焦点を当てて、コノハは彼女らと関わることで成長していくものだと想像していたのだ。なので1話を視聴しながら、ラストまで原作キャラが登場しない展開には驚いていた。これ、原作ファン置いてけぼりで大丈夫か、と。
 
 そういった心配は、2話のラストを観た時点でひっくり返ることになる。1992年のアルコールソフトで、携わってきたエロゲが完成したかと思いきや、コノハは前触れもなく、2023年に帰ってきてしまうのだ。
 「まじか⁉ 現代と過去を何度も行き来する展開なのか、しかもなんかコノハのタイムリープを観測してるっぽい奴もいるぞ!」
 といった具合に感情がぐちゃぐちゃになり、続く3話。コノハが再度タイムリープした先が、前回のリープから4年後の1996年だったことで、この物語の構成が明らかになる。なるほど、我々はコノハと共にエロゲ黎明期から現在までを追体験していくのか。
 
 漫画『16bitセンセーション』は、エロゲ黎明期を生き、創り上げてきた人間達を描く記録であるが、アニメ『16bitセンセーションanother layer』は、エロゲが衰退した後の時代を生きている人間が、記録でしか知り得なかった世界を歩んでいくという体験記だったのだ。
 

現代のエロゲとユーザーについて

 ここで、少し脱線して現代におけるエロゲ市場について語っておく。
 2023年においては、ストーリー重視のフルプライス作品を創ろうと思ってもなかなかに難しい。大手ブランドのビッグタイトルならいざしらず、無名ブランドでは中身で勝負しようと思ってもまず、手に取ってもらうことから難しいからだ。もちろん、フリーの有名絵師やライターを起用して宣伝広告をうちまくることで知名度を確保するという方法も無くはないが、それだけの資金投資をしたところで回収するだけの利益が見込めるか、市場規模はあるのか、それをスポンサーに説明し納得させることが出来るのかという事まで考えると、非現実的ということは想像に難くない。
 この前、大手ブランドゆずソフトの作品『千恋万歌』が、累計売上40万本を越えたと発表していたがあれはかなり特殊な例である。有識者曰く、美少女ゲームはsteamでの海外市場がそれなりにあるそうだ。
 では国内の市場はどうかというと、一定数のユーザーはエロゲを離れてスマホゲームに移ったとされる。かくいう俺も今ではほとんどエロゲをプレイしておらず(直近では『サクラノ刻』をクリアしたぐらい。とんでもない名作だった)、『ブルアカ』や『プロセカ』に時間を費やしている。1話でコノハが『FGO』や『マギレコ』の広告を見て対抗心を燃やしている描写からも、競合先としてスマホゲームが想定されているのだろう。そして、そのスマホゲーム市場についても2022年度から売り上げは下降し、今後さらに急落していくと予想されている。
 ユーザーの次の移住先がどうなるのか、新しいビジネスが生まれてくるのか。取り残された市場を愛しているユーザーはどうすればよいのか。

 

 そう──このアニメを観ていて、ふと思いだしたのが、昔増田で読んだ記事だった。

 大体2010~15年くらいだったと思うが、エロゲユーザーである人が、エロゲの黄金時代をリアルタイムで経験することが出来なかったことに対する想いを語った文章で、寂しさや虚しさが入り混じった感情をして「祭りが終わった後の会場で一人佇んでいる」と表現していた。

 今となっては、「いや、2015年もエロゲはそれなりに売れていただろ」と反論することは出来るだろうが、当時その記事を読んだ俺としては、「あー、まあ気持ちは分からなくはないなぁ」だった。

 

 俺がエロゲをプレイするようになったのは大学生になった2007年以降で、その頃はなんというか、『エロゲ業界の土台が固まり、そして崩れた後』みたいな雰囲気だった。elfなどの時代はよく分らないが、その後葉鍵が覇権を握っていたところにtype-moonが切り込み、他にも実力のある国がいくらか領土を持っていた。そしてユーザー側としては、エロゲの考察サイトや感想サイトがまだ辛うじて残っていたが、勢いは無かった気がする。なので、『kanon』や『Air』が発売された年のように、ユーザーがテキストサイトでひっきりなしに感想や考察を垂れ流していた時代に対する、憧れのような感情があったことを覚えている。
 

コノハとマモルについて

 といったところでアニメのほうに話を戻し、コノハとマモルについて語っていこう。
 展開として、この2人を組ませたのは非常に効果的だと思っている。というのも、彼女らは自分の大好きな物の黄金時代が終わった(終わろうとしている)時代を生きているという共通点があるからだ。コノハは上述したように2023年というエロゲ衰退後の世界で美少女ゲームを愛しており、マモルはPC-98という自分の青春がwindowsの登場によって終わろうとしている状況に向き合わなくてはならない。

PC-98と『対話』するマモル。公式HPから引用)

 

 このことについては、2話の時点から少しだけ散りばめられていたところだが、4話で一気に焦点が当たる。PC-98が終わろうとしていることを諦めて受け入れようとしているマモルを、コノハが叱咤激励するシーン。ここでこのアニメの主張や方向性が示される。──好きな物に対する愛がどれほどのものか、どう向き合っていきたいのか。
「そんな未来なんて変えちゃえばいいんだよ!」
 
 さて、コノハのタイムリープのシステムは、謎の老婆から貰ったいにしえのエロゲ箱が鍵になっている。箱を開けると、玉手箱のようにそのゲームが発売された時代にタイムリープする。1回目は『同級生』が発売された1992年12月、2回目は『痕』が発売された1996年7月、といった具合である。そして現代に戻ってくる鍵は、リープ先でエロゲを一本完成させた時、と思われる。
 4話終了時点で1996年から2023年に戻っているので、順当にいけば3回目のリープ先は、『kanon』が発売された1999年6月だろうか。長雨の季節──ストーリーの折り返し地点としても、感情曲線を下げるちょうどいい位置であり、どういう展開になるのか楽しみでならない。
 なお、軽くwikipediaで調べたところ『kanon』のPC-98版は、発売されていない
 現時点で、未来の改変がどれほど進んでいるかを判断するひとつの目安として、これも見どころである。
 

おわりに

 最終的にコノハが着地する2023年がどうなっているのか──PC-98はどういう形で残るのか、それとも無くなってしまうのか。エロゲをとりまく環境はどうなっているのか。それを予想しながら観ていくのがすごい楽しいアニメなのでとにかくオススメしたくなり、久しぶりにブログを書いている。
 個人的には大穴狙いで、作者の過去作として美少女ゲームが大流行している『神のみ』の世界に繋がって、コノハがメインイラストレーターを担当している作品を桂馬が購入する、みたいなオチになったら面白いな、とか夢想している。これだけ色々とエロゲ関係の許可取ってるんだから、小学館の許可も……取れないかな。